16 :品評会作品「金銀の斧よりも」1/3 ◆ZetubougQo [] :2008/01/27(日) 22:34:31.87 ID:5f7iqRbt0
痛みかけた腰を気にしつつ、男は斧を振り上げる。
数百年の齢を重ねた杉の木は軟材と言えども硬く締まっており、悪戯に体力を削る。
彼は今日切り倒した丸太と、傾きかけてきた太陽とを見やり、ほうと息を吐く。
これで最後にしようと切り始めたのは良いが、石のような心材はそう易々とは切れてくれない。
そういえば、今日は息子に竹とんぼでも作ってやると約束していたか。
帰宅するとすぐ飛びついてくる息子の笑顔を思い出し、振りおろす斧に力を込める。
バキィッ!
木の裂けるいやな音がし、バランスを崩した男は踊りでもおどるかのように一回転すると、
ドスンとしりもちをついた。
後ろの池でぼちゃんと大きな音がする。
男はそのまま呆然と先が折れてしまった斧を見る。
手入れが悪かったからか、先のほうが黒ずんでいる。
「腐ってやがる……遅すぎたんだ」
忌々しげにそう吐き捨て、手入れを先延ばしにしてきた自分を呪う。
頭を振り立ち上がると、わずかな可能性を願って折れた先――斧頭部を探し始める。
辺りをなんども歩き、どこかに落ちていないかと探し回る。
一通り探し終えると、夕日に照らされる男の顔が絶望に沈む。
やはり、この中か。
ふらふらと池の前までくると、そのまま座り込んでしまった。
無理もない。
その池は底なしとして知られた深い池。
しかも極貧生活を営んでいる男に新しい斧を買う余裕など無かった。
日も沈み暗闇がひた迫る中、いっそ身を投げようか、
いやしかし妻子を残してはと思い悩んでいた時だった。
突如として池が金色に輝きだした。
男があっけに取られている中、光は徐々に輝きを増してゆく。
それは真昼の青空のように明るく。
それは焚き火に匹敵するほど暖かく。
そして山頂から望む日の出のように神々しさを放っていた。
男が唖然とそのさまを見ていると輝く池から一人の女神様が現れた。
煌々と辺りを照らす輝きすら霞ませる秀麗な顔立ち。
男は何がおきたのかも忘れて、ただ目をまん丸に見開いているのみ。
女神は男の前まで進み出ると、仏様を髣髴とさせる柔和な微笑みを浮かべ、静かに尋ねた。
「貴方が落とした斧はこの金の斧ですか? それともこちらの銀の斧ですか?」
自分が尋ねられていることに気づくと、男は我に返りひどく狼狽した。
突然の出来事に頭を必死で回転させ追いつくと、大きく深呼吸をしてもう前を見た。
女神の手にはキラキラと輝く二つの斧。
男は思わず金の斧だと答えようとして
「もう一度聞きます。貴方が落とした斧はどちらですか?」
という女神の声で、のど元まで出掛かっていたその答えを引っ込めた。
もう一度女神の顔を見る。
この世の全てを慈愛で満たすかの様なその微笑の前にし、はっとした。
男は一つ大きく深呼吸し、こう答えた。
「いいえ、私が私が落としたのは鉄の斧です」
それを聞くと、女神はにっこりと笑い、こう言いました。
「おお、あなたはとても正直な人間ですね」
そして続けます。
「これからもその調子で生活してくださいね」
そういうと、ずぶずぶと池に戻って行きます。
「ちょっと待ってくれ!話が違う!」
男は驚いて叫びます。
「正直者には金銀の斧をくれるんだろう?」
女神はそれを聞くとふっと真顔になり、男に近寄ると、答えた。
「今、町では嘘偽りが蔓延っている。誰も彼もが嘘をつきつき生活している。
そんな時勢、貴方は正直な心を持っている。
その澄んだ心はこの金銀の斧などとは比べ物にならないほど尊いものなのですよ。」
そう話し終えると、女神と男はくるりと正面を向き、こう言い放つ。
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11 :品評会現代金狂い小話(1/3) ◆VZpO0svMyk : [↓] :2008/01/27(日) 22:31:43.46 ID:s3WsK16D0
「あれ、臼井さんじゃないですか」
臼井は街中で自分の名が呼ばれるのを聞いてぎょっとした。
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